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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

聖水紀■5

SF小説■聖水紀■(1990年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
聖水紀1990/6/8
[5]
「水鳥をとばせろ」ロイドは一言つぶやく。「聖水をあらためて手にいれるのだ。ツラン、君の出番だ」レインツリーのメンバーのひとりツランにロイドは言う。
「ということは瓢衣の方法を使うのだな」ツランが答えた。
「そうだ。水鳥もまだベラの残留思念があるうちに、君が操ってくれ。そして、君の力で聖水騎士団をたぶらかし、聖水を手にいれろ。それを分析しょう。素早く彼ら聖水に対する対抗手段を打ち立てよう。そしてベラの手ががりも手にいれるのだ」ロイドは自分自身に言い聞かせるようにつぶやく。ベラを失った怒りが潮のようにロイドの心に押し寄せていた。ロイドはすさんでいた。建物にもどったロイドは床にうずくまったままのタンツを目にする。タンツの胸倉をつかんで、抱き起こす。せきたてる様に言う。手荒く扱う。「タンツ、早く思い出せ。宇宙要塞ウェガの位置を思い出すんだ」
 が思わず、ロイドはのけ反った。「こ、こいつは」起き上がったロイドを見るタンツの目は先刻の男の目ではなかった。生気が戻ってきている。かっての宇宙連邦軍大佐ウェーゲナー・タンツの目だった。不思議に、昔の威厳も取り戻したとうなのだ。
「乱暴なまねはやめろ。ロイドとやら、私は今、宇宙要塞ウェガの位置を思い出した」タンツの心の中で何かが弾けたようだった。別のいきものに変化した。そんな気持ちがした。この青二才め、目にもの見せてくれるわ、ウェーゲナー・タンツの怖さをな。タンツは心でロイドをののしっていた。

「残念ながら、君たちの仲間は、私に追いつけなかったようですね」 フガンの問い掛けにベラは無言でいた。
「まあ、気にしなくてもよろしい。悪い扱いはしませんよ。レディ、君は賓客ですからね。さて、もうすぐ、我々の神殿につきますよ」 上空からは聖水神殿を中心に発展しているハドルン市の市街地がベラの目に飛び込んでくる。敵の本拠地ながら、ベラはその広さに圧倒された。飛翔機はズンという音と共に着地した。
「さあ、我々聖水騎士団の本部へようこそ、レディベラ」フガンは先に飛翔機から降り、ベラにたいして最敬礼のお辞儀をする。
 フガンの飛翔機のそばに、聖水車がとうりかかる。
「フガン、帰ったのか、首尾はどうだった」聖水騎士団長アマノの声だった。
「隊長、上々です。レディベラをお連れしました」聖水車に向かい、フガンは叫ぶ。
「我々は布教活動だ。あとで説明を聞こう」
「楽しみは残しておいてくれ」聖水騎士団仲間の一人、内藤が叫んだ。
「自分だけ手柄をたてるなよ」コンノも声をかけた。聖水車はゆっくりと町並みのほうへ降りて行った。それを眺めていたフガンがベラの方をふりむく。
「さて、レディ、聖水にあっていただきましょう」
フガンはいやがるベラをつれ聖水神殿へと入っていく。

SF小説■聖水紀■(1990年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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